特集 No.8    義母の短歌 (1−20)   (2005年2月1日発行)


義母(家内の母)は平成4年から短歌を作りかけて、すでに数千首になると思う。
ここにその中から、馬場あき子氏主宰の歌林の会発行、月刊歌誌『かりん』に掲載された歌を掲載する。


手製の歌集

 
空の青さに        梁 未沙(松本みさ枝)


   纏うもの なべて脱ぎたる 真裸の 夕陽みずからの 茜に浮けり



昼間みし 蝶が大きく 夢にきて 貌とも言えぬ 貌が嗤えり



足裏に 隠れる程の 溜まり水 空青ければ 青きを映す



わが墓に 花挿しながら 言うだろう 『騒々しい お母ちゃんだったな』



腹筋の 躍動おろか こみ上ぐる こんな笑いが 残っていたか



猫が貌を 洗うと人の 言うなれど たまには泪を 拭くかも知れぬ 



水餃子 ぷくりぷくりと 浮き上がり 参りましたと 掬われている



『ギャッ』と啼く 狐の鋭き ひと声に 刺されし野径 日昏のおどろ



直角に 流れの変わる ひと処 水も憩いの ひと時を持つ



泥のつく 軍手ずぼっと 脱ぐ指の 軽さよ魚の ごとくに動け
 



   媚びるなく 振り返るなく 冬野ゆく 老い猫まさしく わが影宿す



水族館の 魚の孤独に 逢いたくて ひとりゆくなり 尾鰭なきわれ



大空に 向かい指にて 描きみる 隙間だらけの 空という文字



風は初夏 残り椿の 一輪が 北にむかいて ぱっちり開く



風が啼く 高きに低きに 風が啼く 声を掛け合う いち人欲しき



鈴つけし 猫よりひもじさ 怺えいる 媚びることなき 野猫親しき 



わが野良着に つき来し虫よ 群れ離れ 生きると言うも たやすくあらず



『いのししの 見残す筍 食っている』と 里人のどかに 呵々と笑えり



世に立たん 鎧を脱げば 飄々と 吹かるる落葉の 軽さにいたり



てのひらを 持つ風が吹く 柿の葉は 触られたくて ざわめきやまず



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