特集 No.8    義母の短歌 (21−40)   (2005年2月1日発行)


 

吹く風に けしの実悠々 ゆれいたり もはや人の目 惹く色持たず



突然死の ごとく知られず 枯れいたる もみじのさみしさ 他人事ならず



脱走の 本能はげしく ゆるる午後 茹でいる卵の 音痛ましき



乳母車 押して子供を 遊ばせし 思いで持たぬ 母なりわれは



返事して 呉れる人なら 誰方でも とはゆかなくて 酒の座を立つ



 枯茎の 二尺に足りぬを 登りつめ 下りられなかった 毛虫の木乃伊



親子とて 言いたき放題 言えもせず 完熟トマト 潰されいたり



 前の世は 仲間であった かも知れぬ 我を見ている 魚の目玉



 みみずにも 生きて楽しき 瞬ありや 目も耳もなく 闇をうごめき



わが脛を 樹木と紛うや 蟻ひとつ 登り下るを 暫しは許す
 


見の限り 人影のなき 野に聴けり 谺とかえる 鴉の声を



恙なく 生きて生ごみ 捨てにゆく 髪乱す風 なまぬるき夕



思いでは 仄かに白き 帆を張りて 眠りに落ちん 狭間にゆるる



存在を 示すがごとき 古き杭 わが触れし瞬 ころり倒れき



山鳩の 真夜中ひとしきり 啼きたつるは 子鳩に死なれし 母かとおもう



野良猫に なりきれずいる 迷い猫 生きる道問う 生きものの声



宿命の あごまだ稚き かまきりの すんなりたたむ 羽美しき



抵抗も なく捨ててゆく 夢幾つ 生きゆく荷物は 軽きがよろし



定着の 土を選ばぬ 風媒の バーベナ空地に 自が春謳う



海越えて 来たるバナナの 値の安さ 東南アジアの 汗が臭えり



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