特集 No.8    義母の短歌 (41-60)   (2005年2月1日発行)


 
   
椿の実 捥ぐに惜しき 艶持てり 椿の意思に 任せ置かんか



現実が 夢に続きて 握りいる 双の拳の ままに醒めゆく



紅葉を 急ぐまゆみよ 陽は高し それ程急いで 先があるのか



雑草に 混じるトレニア 今少し 背伸びして咲け 思いを遂げよ



打ち返す 芽生えしばかりの 草の根の 白く長きが ほぞの緒に似る



生きものを 飼わぬひとりの つれづれに 鴉の歌を 今日も詠みける



用済の 壜の大小 それぞれの 分限の空気 溜めて煌く



ジョギングの 男霧分け 現れて 濃霧の壁を 額で押しゆく



壷の中の 小さな闇の 囁きを そのまま閉し 買うことにする



見るまじき 鴉の秘密か 開し口 喉の奥まで 赤く妖しき



もの言わぬ 石に腰かけ 体熱を 奪われている だぁーれも来ない



ひそやかに 呟くごとき 煮豆の火 闇にしんしん 冬迫りつつ



『ありがとう よくぞ丈夫な 歯をくれて』 突然息子が 真顔をむける



乳牛の 滝なすゆまりに 仰天し 奇声を上げる 街の子供等



サングラス 外せば童顔の 孫なりき ナナハン駆りて 墓参に戻り来



幾曲り 曲るも車の 正面に 新生児のごと 赤き満月



トラックに 頭を垂れて 牽かれゆく 眠れる獅子か ユンボの巨体



積まれいる 廃車のミラー 耳に似て それぞれの過去 聴きいる象



男なら 屋台の酒に 憂さ晴らす 夕べをきこきこ 鍋磨きいる



半熟の 卵のような 気だるさを 吹き飛ばしたり 冬の晴天



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