特集 No.8 義母の短歌 (61−80) (2005年2月3日発行) |
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子等去りて 畳は広き 寒の入り 霧降るごとき うすら寒き狐 回礼の 和尚の足許 軽やかに 白足袋ならぬ 白スニーカー 巣立ちたる 孫に貰いし 年玉の 袋楽しむ 老いとなりけり 古びたる でんでん太鼓に 残る玉 片割れながら われも弾めり 職につく 乙女の如く 淡々と 嫁ぎしわれよ 十九の春に かまどの火 燃えぬ焦りに 泪ぐむ 夢は十九の 花嫁のわれ テレビ消し 灯りを消して いまひとつ 消さねばならぬ 昼の雑念 坪庭を 耕し俺が 育てしと 京より甥が ねぎ提げて来る 父の墓 京都に建てると 甥は告げ 人を恃まぬ 男の目なり もしかして 郵便受けを 探る指 釣れぬ釣糸 手繰るに似たり 小屋代り 物置代りの 廃車バス 錆びてほろほろ 過去を消しゆく 昭和七十四年に満期の 保険あり それまで私の 昭和は続く 飽食の 寺の黒猫 金いろに 光る目細め 煮干をまたぐ 「人生は 渋くて辛くて いやなもの」 頷きうなずき 鴉が歩む 三分咲き 五分咲き満開 花吹雪 一気に春が 駆け抜けてゆく かなしみが 沁み入るような 春の雨 新芽つたいて 幹濡らしゆく 肩よせる 肩が欲しいと 思う日の 心機一転さくら 見にゆく ひとりなる われに今日あり 明日あり 花の開くを 待つばかりなる 鍵っ子に 似たる思いの ひとり食 納豆いつまで 掻きまわしいる 府道逸れ 谷川一キロ さかのぼる 何もなけれど わが桃源郷 |